*ジェラルミンケースの絶対防御*


オレの『コイビト』はよく分からない人。
出会ってから四年以上、付き合い始めてもうそろそろ一年になるけれど、本当によく分からない。
誕生日は2月2日。血液型はO。家族構成は両親と弟。好きな色は青、嫌いなものは雨。
数字みたいに無機質なデータだけがオレの頭に記憶されてく。
……そんなことが、確認したいわけじゃないのに。


夕暮れの町外れ。
底冷えする晩冬の今日も夜がやってくる寸前まで練習に明け暮れて、学校を出た。
隣にはコイビト、準サン。
無言で自転車を走らせるこの人は、音が一切なくってもまるで平気、って顔をする。
いつもはオレがいっぱい話しかける。
きょうあったこととか、クラスでの様子とか、野球についてとか。
たまに――準サン好きだよ、って、冗談みたいに言ってみる。
準サンは、それに笑ってくれるけど……当然だ、みたいな嫌な笑い方の時もあるけど。
でも、こうして今日みたいにオレがなんにも話さないと、この人は静かだ。
滅多にない。
準さんが自分から、オレに話しかけてくれることなんて。

なんで?
そんな疑問が出てきたのは、ついこの前。
オレ馬鹿だから――、一年も付き合っててやっと、そんなささいなことに気がついたんだ。
この人の心を、オレはホントは全然、知らないんだって。
オレが嬉しかった事とか、失敗して落ち込んだ時とか、それを聞いたこの人は、ちゃんと答えてくれる。
慰めてくれる。馬鹿だなって笑い飛ばしてくれるし、良かったなって言ってくれる。
けれど、その『オレ』にどういう感想をもったのか、何を思ったのか、この人は教えてくれない。
オレだけじゃないのも知ってるけど。
準サンは誰に対しても、多分こんな感じ。

よく――分からない人。


キィッ。
人影のない住宅街の一角に、オレが踏んだブレーキの甲高い音が響いた。
一瞬遅れて、それがもう一つ。
数メートル先で、準サンが怪訝そうな顔をして振り返った。
「どうした?」
わかってるの、準サン?
それが今日、帰り道で初めて準サンが言った言葉だってこと。
「利央?」
ハンドルを握った手に視線を落としたままのオレを呼ぶ声。
でも、心配してるのかそれとも怒ってるのか、心の読めない声だ。
付き合いだしてからちょっとだけ、感じてきたこと。
オレが変わったんじゃない。これはこの人が変わったんだ。
なんだか隠し事をされてるようで――お前には、本心は言えないと突きつけられてるようで……。

知らず、涙が出た。
空風が頬を撫でて冷たくて、自分が泣いてるんだと知る。
ズビっ。
鼻をすすったら、準サンが自転車を下りて近づいてくる気配がした。
「……なんで、泣いてんだよ」
なんで、と聞くアンタが悔しい。気付けないのか、気付いてくれないのか。
吐き出すように、オレは言ってた。
「準、サンはっ。オレといても、たの、しいのか、うれしい、のかっ、全然わか、ないっからっ……」
一言目が出れば、もうあとはなし崩し的に。
思ってたこと、不安だったこと、全部伝えてた。

――この関係が、ここで壊れても、仕方ないと思いながら。



10分か、それとももっとだったかもしれない。
ひとしきり泣いたオレがようやく顔を上げたら、思いもしない準サンの顔が目の前にあった。
「くっだらねぇ」
始めて見た困り顔の準サンは、北風ですっかり冷たくなった俺の手に自分の手を置いて、ぎゅっと握る。
「……俺が、お前に告白したんだぞ、アホ」
発したのはたった一言だったけど、その言葉を追うように柔らかいキスが額に落とされた。
言いたい事も、伝えたい事もまだまだあったけれど、今はそれだけで、充分な気がした。

たった一言と、言い訳みたいなキス一つで幸せになれるオレは、やっぱり準サンの言う通りアホでバカで単純なんだと思う。
でも、なんとなくほんの少しだけ分かった気になりたい。
自分が、この人の何になれるか。
頑ななこの人の心がなんなのか、って……。




オレのコイビトはよく分からない人。
とらえどころのない人。
無口であんまり『表現』という言葉が似合わない人。
しっかり閉じられた、書類鞄みたいな人。

秘密主義の、人――。






最後の方の利央が準太の何になれるか=鍵。
頑なな準太の心=ジェラルミンケース、のつもり。
準さんがこんななのは、多分好きな相手に弱みをみせたくなくてぶっきらぼうなだけ(笑)
青春っていいですね!
2011/03/26