*まぶしい*


学校から自転車で30分。新緑気持ちいい芝生公園。
東にある広場のベンチで、利央は準太を待っていた。

思い出のある場所だった。
付き合いだして二ヵ月半、午前練のあとこの公園にやってきて。
今日と同じように春の日差し柔らかだったあの日、準太と初めてキスをした場所だった。

あれから一年。
西側には残念ながら大きなマンションが建ってしまって、園内にはほんの少しかげる場所が出来てしまったけれど。
一面の緑、僅かにそこを彩る赤や黄色の花は花壇から嬉しそうにこちらを向く。
噴水から放射状に広がる水は力いっぱい太陽の光を吸って、なんだか嬉しそうに煌めいた。
「……やっぱり早く来すぎたかなあ」
思わず頬を緩めてしまうような景色から一瞬視線を外し、利央は呟く。

練習が早く終わったから、その足で自転車を走らせた。
準太が大学に進学してからなかなか会えないでいる反動だったのかついつい足が急いでいて、 約束の時間よりも大分早く着いてしまうことは分かっていたのに。

一年……。
もう一度目の前の景色に目を移して、利央はしみじみとその言葉を噛み締めた。
彼と共に歩き始めてもうそんなに時間がたったのだ。
(でも何だか――…)

「……ちょっとは隠しとけ、相変わらずのアホ面」
「え、何っ!?」
突然目の前が暗くなって利央は慌てる。
思わず自分の目元に両手を添えると、人肌の温かな塊がそこを覆うように張り付いていた。
「……準サン? あれ、早かったね」
どけられない手に自分のそれを重ねたまま、利央はベンチ越しに背後に立っているであろうその人を見上げた。
「お前こそ。練習あったんじゃねーの」
「うん、早く終わった」
利央の頷きと共に手のひらはゆっくりと離れた。
青空に閃光する太陽が僅かに自分の瞳を焦がす。そして覗き込むのは愛しいひとのにやりとした顔。
べちん、なんて軽く音を立てながら小突かれた鼻を「痛いなあ」なんてさすって、利央は準太を歓迎する。
ちゃんと会えるのは休日だけ。
昨年までは当たり前に毎日顔を合わせていた、と考えるとこの待ち合わせはなんだかとても嬉しい事のように思える。

「飯、行こうぜ。腹減っただろ、お前」
ベンチの背もたれ部分――利央の両サイドに手を置いて、準太は横から利央を覗き込んだ。
互いにランチはまだ済ませていない。近くに出来たパスタ屋が美味いと聞いて試してみようと約束していたから。
「分かった。準サンのおごり?」
「てめー、調子乗んな」
置かれていた右手が生意気な後輩の首に絡みつく。
息苦しくなった喉で利央が「ギブ、ギブ」と謝ろうとしたその時、今まで静かだった公園広場に甲高い声が響いた。
わいわいきゃあきゃあ、侵入者たちは小さな体を弾ませて次々に広場を駆け回る。
「ああ、土曜日だもんな。この辺も子供減ったと思ったけど……」
緩められた腕の間で、利央も微かに頷いた。
大人しげな彼の様子を準太は怪しんで、絞めすぎたか?と思わず利央の顔を覗き込む。

(――…なんでそんな顔してんだよ)
その瞬間、準太は己の目を疑った。
切ない目。その澄んだ不思議な色が憂いを表して、でも口元だけは僅かに微笑んでいる。
そんな理解出来ない色を利央は表していた。

「りおう?」
声をかけた瞬間、利央は弾かれたように瞬きをする。
心配そうに頭に手を置いた準太を、安心させるように微笑んで。
「……なんでもない。ちょっとだけ眩しく見えてさ」
視線の先には、無邪気に遊ぶ子供たち。
それを見て、準太にもなんとなく利央の気持ちが分かったような気がしたのだ。
「後悔、してるか?」
かつて自分たちもあの子供のように遊んでいた。
無邪気にじゃれて、そこにはただ真白い打算も欲望も何もなく相手に触れていられる時間が広がっていた。
「それは無いよ、絶対に」
準太の問いかけに利央はきっぱりと言い切った。
背後の準太はそれに心から微笑んで、そうして何かを振り切るように利央からそっと離れる。
「さ、メシ食いにいこうぜ」
「あ、待ってよ、準サン!」
離れてゆく準太の背を追って、ベンチから立ち上がった利央も大急ぎで彼を追った。



後悔なんかしていない。
差し出してくれた手は温かく、それは自分が何よりも望むものだから。

けれど、少しだけ眩しかった。
戻れない時間が。
あの時間は焦がれるこの気持ちを知らない代わりに、胸を危うく揺るがすこの気持ちに悩まされることもなかったから。

今はこちら側にいるから。
少しだけあちら側が――まぶしい。





15のお題終了です!
お題は特に続き物だったり同じ時間軸だったりのつもりはなかったんですが、
今回のはなんとなくオトナとコドモの続きっぽいかな……。
長い間お付き合い、有難うございました!
2009/12/16