*オトナとコドモ*


午前練を終えて、午後は休息日。
自転車を30分ほど走らせた場所にある公園は、春のうららかな日差しで満たされていた。
木々のさざめく公園の端、芝生の上に2人で寝転がって、準太と利央はまっさらな空を眺める。
「うあー、いい天気すぎて眠いーっ」
手足を大の字に伸ばした利央がそう呟くと、隣の準太もそれに頷いた。
「マジ、春だよな。俺もねっみぃ……」
伸びをした準太の左手が利央の胸板にぶつかった。
途端に、利央の心臓がどきりとはねる。一方準太は悪びれもせず、そのままゆっくりと目を閉じてしまった。

準太と利央が付き合いだして2ヵ月半。
勢いにまかせて告白した利央を、準太は笑って受け入れた。
その答えに利央は胸を躍らせたけれど、それから「本当に付き合ってるのかな」と疑問に思うこともしばしば。
確かに休みの日には一緒に出かけるし、登下校も一緒だし、昼食を一緒に食べることも多いけれど。

(なんていうかさ、甘い雰囲気……とか、全然ねーんだもん。準サン、オレのことホントに好きなのかな?)

ふう、とため息をついて利央がそっと寝返りをうった。
公園の端にあたるこの小さな芝生庭には、人気も無い。
二人揃って黙り込んでしまえば、わずかな小鳥のさえずり以外、何も聞こえなくなる。
「りおー」
彼の胸に乗せていた腕が芝生に落ちて、準太は利央が自分に背を向けたことを知った。
そっと首を動かして、その様子を伺う。
「なんスかぁー」
間延びした声はなんとも眠たそうだ。ぴくりとも体を動かさない。
「こっち向けよ」
「何でェ?」
「いいから、向けよ」
語尾を強くして言ってやると、利央は緩慢に再び寝返りをうった。
胸元からちりりと軽い金属音がして、いつも身につけているロザリオがその顔を覗かせる。
準太がそのロザリオを掴んで引き寄せると、利央はそれに合わせて慌てて首を動かした。
「ちょ……、準サン鎖切れちゃうじゃん!」
「んー…?」
先ほどまでのダルそうな声はどこへやら、声を荒げた利央を準太が軽く受け流す。
そのまま、近寄ってきた頭をもう片方の手で包み込んで身を寄せれば、目の前には春の日に色を変える利央の瞳が映る。

瞼を重そうにして、準太は満足そうに笑った。
(近いよ、準サンっ……!)
まさに爆薬100パーセント。利央の頬は急激に赤みを増して、準太を非難する。
「お前さ、何で何もしてこねーの?」
「な、なに?」
「俺のこと好きだったら、逆に襲っちゃうくれーのことしたら?」
満面の笑顔の下に、なにか黒いものがある。
ヤバイ、と利央が思ったときには既に遅かった。
頭に回された手で、もともと数センチしかなかった距離をゼロにされる。
気づいたときには、もう口付けられていた。

「じゅ、ん、サンの……卑怯者ぉー」
唇が離れた途端、利央は顔を覆った。恥ずかしさでいっぱいだ、こんなの。
全部全部、この人はお見通しだったのかと思うと、余計にその感情が色濃くなる。
「何だよ、して欲しかったんじゃねーの?」
「そ……だけど、もっとちゃんと……。雰囲気づくりとかさァ!!」
身を縮める利央の髪をいじって、準太はさらに笑う。馬鹿で、アホで、可愛いなぁと。
始めてなんて、勢いでやってしまった方がいいに決まってるのに。
(ホントはこっちだって、恥ずいんだよ、アホ)
それでも、こいつが望むなら叶えてやろう。そっと上半身を起こして、準太は未だ赤い顔の利央を見下ろした。
「なぁ、利央」
「……なんスかぁ!」
顔を覆っている手をどけて、その目を真っ直ぐ見つめる。
近くで見たときとはまた違う、不思議な色が準太を見つめ返してきた。
「俺はお前のこと好きだから、これから遠慮なく襲うぞ」
目が開くだけで、驚きの声さえ上げられなかった。次の瞬間には、再び準太の唇が覆いかぶさっていたから。
「ちょ…、ふっ……んんっ?」
しかも、今度は先ほどのように生易しいものじゃない。
歯列を割って入ってくる舌。熱い吐息。
耐えられなくなって、利央は自分に体重を預ける準太の服を引っ張った。

ぜいぜいと、荒い息の向こうで逆光で陰になった準太の顔と、深い空の青が見えた。
「……うううーっ」
声にならない呻きを上げて、利央はただ準太に抱きつくことしか出来なかった。
「馬鹿なおこちゃまは、とことん単純だなー」
黒髪の彼の胸に埋めた頭の上、堪えきれなくなった準太の、噴出す声がした。



オトナとコドモ。
2つのキスのハジメテを、同じ1日に体験して。
きっと今日は、忘れられない日になるのだろう。



青く、晴れた、うららかな春の日。




あとがき

オトナとコドモ、迷った末にキスの話にしてみました。
こんなに余裕な準さんも、たまにはいてもいいんじゃないかな(笑)
いちゃこきやがって、2人とも。
でもとっても楽しい作業でした☆

2008/06/15