*しろい*


東雲や曙が厳かに通り過ぎて、太陽が世界を照らす。
真っ白な光が顔に射し、準太はまだ深く沈んでいる意識をわずかに持ち上げた。

初夏の光源が目に痛い。
眉をしかめながら右手で顔に影を作り、呼び覚まされるように目を開けば、
やはり、想像したとおりの色がそこにはあった。
光の反射をよりいっそう際立たせる、白。
柔らかな波形を伴ったシーツの海は、利央をその腕に抱きこんで穏やかにそこにいる。

自分に背を向けた利央の姿がなんだか悔しい。
上半身を起こした準太は、よく日に焼けた腕で隣の後輩をくるり、ひっくり返した。
「――…スゲー馬鹿面」
力なく白い海に沈んだ顔は、安心しきった子供の表情だった。
重力に負けてシーツにはさまれた頬が歪んでいる。
異なる血を混ぜ合わせた者特有の目尻の深さはいつものままに、普段血色の良い唇だけが睡眠を表すように桃に染まっていた。



……無防備な者にはいたずらを。
中学・高校と先輩から教えられてきた我が部の伝統。
(ま、文句でも言われたらそう答えときゃいいだろ)
薄い笑いを浮かべたまま、完全に目覚めた準太の腕は再び利央へと伸ばされる。

透ける髪を陽にかざし。
力のない頬をぐいぐいと引っ張り。
身じろぐ身体を満足げに眺めた。

もうあと数日で成人になろうとしているのに、未だ子供な利央はこんな時にも起きようとはしない。
ただ、準太の気配を夢の中でも感じてはいるのだろう。
利央の体格に見合った長い腕は無意識に準太を探り当て、その胸板にぎゅうと頬を摺り寄せた。

光射す朝、白い部屋。
一人暮らしの若者には充分なはずのワンルームは週末だけその姿を変え、ほんの少し狭くなる。
賑やかな夜、熱い指先。
そんな日々が続いてもう二年と半年。
(そろそろ…ちゃんとしねーと)
穏やかな利央の寝息を首筋に当てられて、準太の顔が緩んだ。
「……でもなぁ、まだお前、全然子供だしなぁ?」
胸に圧し掛かる利央の重みが心地よい。
そろそろ、あの白球を追いかけていた頃みたいに真っ白ではいられない年になった。
それなりの覚悟と、それだけの自信もついた。

けれど。
まだもう少し、待ってと言われたら待ってやることは出来る。
まだもう少し、気づかないでと言われたら黙っててやることだって出来る。
(利央、お前がしろいままでいたいなら。それ以外の色を知らないでいるのなら)

ぐしゃり、安定剤の代わりにふわふわの髪を乱して。
いましばらく、この白い部屋で惰眠をむさぼるのもいいだろう。



両腕に抱く、この愛しい存在が「おはよう」と、笑うまで――。




あとがき

すっかり暖かい陽気になって、毎朝目覚めが爽快な時期になりましたね!
今回の準太と利央は、事後(くっついた後)でも事前(くっつく前)でも、
どちらでも取れるように頑張ったつもりです。
事後:将来の伴侶的決心 / 事前:くっついちゃう決心
という風に受けとって頂けると嬉しい準太の葛藤でした。
まあ、どちらにしても利央は準太を盲信してるから大丈夫でしょう(笑)
2009/04/25