*カミサマが死んだ日*


誰かが言った。その恋は、許されない恋だと。


後ろから日に焼けた腕に抱かれて、身動きが取れないでいる。
高校の中庭の片隅。
冬の重い曇り空から、今にも雪がひとひら、落ちてきそうな天気だった。

「準サンさぁ、オレが好きなの?」
利央からの問いかけに、準太は腕に力を入れることで返答する。
そっかぁ、という諦めにも似た吐息がわずかに空気に溶けて、利央はその体を準太に預けるように、もたれかかる。


もうずっと……、ずっと前から知っていたことだった。
けれど、気づきたくなかったから知らないふりをしてた。
それが一番いい方法だと思ってた。
自分にも。
準太にとっても。

でも無駄だった。
知らないふりをしていた分だけ心の底から思い知った。
気づきたくないと思う分だけ、囚われていた。
言葉になんかしなくても、その目でその指先で、気持ちなんかいくらでも伝わってしまってた。

「……お前、アホなんだからなんにも考えないで、ただ俺についてくればいいんだよ」
利央の気持ちを見透かすように、準太は声をかける。
髪をくすぐるその声が気持ちいい。
そして、重い雲を見つめていた利央の目にとてつもない色が宿った。
隠してきた色が。ずっとずっと、秘められていた色が。
「そーゆーこと、言えちゃう準サンて、やっぱり投手なんだってオレは思うな」
緩んだ利央の口元、力の篭った指先が震えたのは気のせいなんかじゃないだろう。

己を邪に誘う蛇がここに現れた。
禁断の果実をその口に運べと。
甘くかぐわしい香りを存分に味わって、したたる蜜をあますことなく享受せよと。
はるか昔の最初の女。
あなたもこうして惑わされたのですか。
大樹から身を躍らせた蛇は、こんなにも妖艶な姿をしていたのですか。


雲が動き、まっさらな青がかすかに空を支配した。
それと同時に、利央の体は準太の腕の中で反転する。
「……俺が好きだろ? 利央」
自信たっぷりに口元を上げる準太は、悪魔にも似ている気がした。
「そのくらい、知ってるでしょ」
可愛げのない言葉を吐き出して、闇色の髪を掴む。
甘い、かぐわしい、妖艶な。熟しきった罪の果実をそっとその唇に合わせて……。
そして、それと引き換えに『幸せ』を知った。



背中の向こうには礼拝堂。
全能の存在が、静かに存在する聖堂。
そして、ある者にとっては静かに眠る――墓所。



あとがき

いつも利央がいびられてかわいそうなので(笑)
今回は比較的二人とも小悪魔で。
思っていたよりも難しいお題でした;

2009/07/24