*待つのにはなれている*



目の前を通り過ぎてゆく幾つもの足。
ローファーにピンヒール、ブーティに革靴。あー、あれ、あのメーカーの新発売のスニーカーだ、欲しいなぁ。
駅前コンコース、花壇の縁石に腰掛けながら、オレはいつものようにあの人を待つ。
休日午前10時。雑踏はせわしなく、車のエンジン音や電車の発車音もまるで何かにせきたてられるみたいに忙しそうだ。

キャップ帽のつばと駅前コンコースの白いコンクリート。
そんな狭い世界に閉じ込められたオレの視線は一向に上向かない。
こういう場所で長々待たされるのは嫌いだ。
ただでさえ目立つ外見で人目を引くのに、一人で、しかも手持ち無沙汰に人待ちなんかしていると絶対声かけられたりするんだもん。
だから絶対立たない(背ぇ高いと目立つし)、絶対目線を上げない(変わった目の色見られるし)、帽子を目深に被る(少しでも顔の面積隠すため)。
これが人待ちのときのオレの三原則。

「……ていうか、もう三十分も待ってるんですけど」
ちらりと腕の時計を確認して、大きなため息。
ため息つくと幸せ逃げるんだって。あとであの人に文句言わなきゃ。

なんだかなぁ、最近あの人は少し調子にのってるとオレ、思うんだよね。
例えば下校時。
「ちょっと待ってろ」なんて言って、戻ってきたのほとんど校内に人がいなくなってからだし。
例えば昼休み。
「先行って席とってろよ」学食ね、ハイハイ。
せっかく二人分の日替わりランチ買って待ってたのに、料理が冷めた頃ようやくやってくるし。
絶対、絶対、調子にのってる。そうにきまってる!

多分オレを待たせておいて、それでオレがきゃんきゃん吠えるのを見るのが、今のあの人のマイブーム。
ほんっと、悪趣味としか言いようがないよね、あの人は。
だいたいさ、普通仮にもコイビト同士だったらもうちょっといいムードとかあってもいいと思うんだよね。
特にこんな待ち合わせなんかさ。
「悪い、待った?」「ううん、全然」そんな会話ありそうなのにさ。
(って想像してたら、今まさに隣のカップルがこれと同じ会話した。サイアク)
あの人なんかいつも第一声目から「いくぞ、利央」だよ? マジ信じらんねェ!
悪いとか、絶対思ってないんだから。

もうホント、帰っちゃおうかな。
何回目か分からない遅刻。多分オレが毎回毎回どれくらい待たされてるのか聞いた人はいいよ、って肯定してくれると思う。
利央くんかわいそう、って同情してくれると思う。
だってほんとに、それっくらいひどいから、あの人。

――…トルルルル……。

そんなオレの考えを見透かしたようにポケットの携帯が振動した。
何のメロディもない、無設定の着信音。
ああ、あの人ですか、そうですか。
「……遅いよ、準サン! アンタ一体なにしてんのォ!」
せめてもの抵抗に、大きな声で電話口のあの人になじってみた。
返ってきたのは『うるせぇなぁ』なんていう不機嫌な声。
うるせぇじゃないって。不機嫌なのはこっちだよ。
『なんだよ、まだいたの、お前』
「今帰るトコですーっだ! もう知らないかんね、アンタ一人で映画いってよ」
もう予定の上映時間は過ぎた。次の上映時間は夕方遅く。
さすがにそんな時間まで待ってることはないもんね!
『どうせ家帰ってもなにも予定ないくせに。もーすぐ着くから、大人しく待ってろよ』
相変わらず、謝罪の言葉の一つもない。やっぱり、絶対調子のってるじゃん、この人。
「ヤだよ。準サンいっつもそんなコト言って、またオレのこと待たせるし」
憎まれ口が止まらない。だって、本当にいやなんだ。余裕ぶってるこの人も。
なんだかんだ言って、毎回律儀に待っちゃうオレ自身も。


……でも、ホントは知ってる。
この人が、なんでオレを待たせるのか。
ついこの前までは単にムカついてムカついてしょうがなかったんだけど。
でもね、聞いちゃった。

これって【アイジョウカクニン】ってやつナンデショ?

毎回部室でグチるオレがあんまりにもうざったかったのか、それともちょっとくらい哀れに思ってくれたのかは知んない。
でも、聞いちゃった。
タケさんのカノジョさんもよくやるんだって、こういうの。
【そう、つまりお前は愛されてるんだよ、利央】
笑ってくれた新チームの頼れる主将。
単純だけど、嬉しかったよ。
【だから、コイビトのそういうところ、ちゃんと受け止めるのが男だぞ】
なーんか、丸め込まれちゃった気がしないでもないけどさ。
でもやっぱり、嬉しかったしね。


『だから、今日は本当にもうちょいのトコまで来てるんだっつーの!』
あー、ハイハイ。
これもいつもの上等文句。
この人さぁ、いっつもオレのこと頭が足りないって馬鹿にするけど、それ、まんま準さんにお返しするよ。
だって、いっつもおんなじ言葉でごまかすもんね、この人。
「じゃー、あと10分。それ以上は待てないかんね、早く来てよ?」
あーあ、結局また折れちゃった。
どーしても断りきれないのはやっぱりきっと、準さんのせい。
好きだもん、しょうがないよ。
それに、アイジョウカクニン、だなんて言われたらやっぱりもうちょっと頑張ろうかな、なんて思うし。
(でも絶対そのうちやり返してやるもんね!)



大丈夫、どっかの誰かさん――…大好きな人のせいで、待つのにはなれている。
だからもう少し、大嫌いなこの人待ちも頑張れる。








準利です、逆じゃないです(自分的には)。
普段(夜とか)女役な利央としては、きっと【それが男だ!】とか言われると受け入れちゃうんじゃないかと思う。
そんな単純で可愛い彼が大好きです。
そしてそんな利央に意地悪な準さんも大好きです。
2009/10/05